「筑後川」 団伊玖磨作曲 丸山豊作詞 第41回定期演奏会 ⅡStage
Ⅰ みなかみ
いまうまれたばかりの川 山の光は 小鳥のうぶ毛の匂い。 若草と若葉のかさなりは 天へつづくみどりの階段。 阿蘇外輪の春。 溶岩の寝床で
いまうまれたばかりの川 すがすがしい裸の愛が 頬をあからめて歌いだす。 素足でげんきよく走りだす。 さあ遠い旅行がはじまる。
けものの白い骨を 狩人の墓を洗い 森のくらさをおそれずに 滝の高さをおそれずに さあ未知のくにぐにへの旅行がはじまる。
Ⅱ ダムにて
いそいそと瀬を走り 青葉をくぐり もだえてみぎに左にうねり 愛の水かさがふくらんだところで 非情のダムにせきとめられる。 川よ 愛の川よ もっと深さをもつように。
もっと重さをもつように。 もっと冷静であるように。 (男声) 不屈の決意をした青年です。 いのちがけで愛するために。 見よ! 水面に映したくれないの雲。
(女声) あなたを信じます。 あなたの愛を ごらん!魚たちの鰓呼吸のおだやかさ。 川は 大きな川は かがやく活路をさがしだす。 自然に育てられた愛が
筑後平野の 百万の生活のなかへ 歓喜の声をあげて走ってゆく。
Ⅲ 銀の魚
しずかにしずかに 楠の木かげを漕ぎだした 川の男の たくましい胸板。 あたらしい棹を入れる 川の女の 清らかなうなじ。 朝の川面に 投網がふくらむ。
さざなみが沸く。 さざなみがひろがる。 深い川の深い心の いきのよい魚をとらえるのだ。 朝日にはねよ銀の魚。
Ⅳ 川の祭
祭よ 川を呼びおこせ。 とっぷり暮れた大きな川へ 太鼓をたたけ。 太鼓をたたけ。 一千匹の河童よさわげ。 十万匹の河童よさわげ。 どどん どどん どどん どどん
祭よ 愛を呼びおこせ。 はげしい愛を呼びおこし 花火をあげよ。 花火をあげよ。 一万匹の河童をてらせ。 ぱぱん ぱぱん ぱぱん ぱぱん
祭よ 愛を呼びおこせ。 十万匹の河童をてらせ。 百万匹の河童をてらせ。 ぱぱん ぱぱん ぱぱん ぱぱん
Ⅴ 河 口
終曲(フィナーレ)を こんなにはっきり予想して 川は大きくなる 終曲(フィナーレ)を華やかにかざりながら 川は大きくなる 水底のかわいい魚たち 中洲のかれんな小鳥たち
さようならさようなら 川は歌うさようなら 紅の櫨の葉 樟の木陰 白い工場の群れよ さようならさようなら 川はうたうさようなら
筑後平野の百万の生活の幸を 祈りながら川は下る 有明の海へ 筑後川筑後川 その終曲(フィナーレ) あゝ
指揮 高瀬 新一郎 ピアノ 遠藤 直子
「筑後川」 第41回定期演奏会 ⅡStage 2010年6月26日 練馬文化センター